- Slackの創業者Stewart Butterfieldが、優れたプロダクト設計の心構えを語るエピソード。摩擦削減よりも『ユーザーが考えなくても使える簡潔さ』を重視すべき、という一貫した哲学が貫かれている。
- 特に印象的なのは、自分たちのプロダクトに対して常に不満を持ち、改善の余地を見出し続けることの重要性。Slack立ち上げ当初、彼は「今のSlackはクソだ」と公言し、チーム全体がそれを座右の銘にしたという逸話がある。
- 後半では『オーナーの錯覚』という概念を紹介。プロダクト作り手が自分たちの世界観に入り込みすぎて、実際のユーザーの行動や心理を見落とす現象について、具体例を交えて解説している。
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常に不満を抱き続けることの重要性——Slack立ち上げ時の哲学
2014年のSlack公式ローンチ時点で、Butterfieldは自分たちのプロダクトを『巨大なクソだ。ひどい。こんなものを世の中に出すのは恥ずかしい』とMIT Technology Reviewのインタビューで発言した。これは自分たちを貶めるのではなく、改善の無限の可能性が見える人だけが設計すべき、という信念を表している。翌日、チーム全員がこの言葉を40枚の紙に印刷して壁に貼った。つまり、常に現状に満足せず『これはまだ不十分だ』と思い続けることが、良いプロダクトづくりの必須条件だという考え方だ。
摩擦削減から『ユーザーが思考しない簡潔さ』への転換
プロダクト設計で一般的な『摩擦を減らす』『クリック数を減らす』という目標は実は誤解だという指摘。本当に重要なのは『ユーザーが脳を使わなくても使える程度に簡潔であること』。例としてSnapchatの使い方を挙げ、ティーンエイジャーが1秒に4〜7回タップしながらストーリーを見ていたが、それが流動的で心地よいのは、各タップが『次を見たい?』という単純な判断だから、という分析。もしタップ数を減らそうとしたら、その体験自体を損なってしまう。つまり、摩擦は必ずしも悪ではなく、理解と判断のシンプルさが真の目標だ。
オーナーの錯覚——自分の世界観に没入するがゆえの失敗
レストランのウェブサイトの例から導出された概念。多くのレストラン公式サイトには、住所・電話番号・メニュー・営業時間・予約方法など、ユーザーが欲しい基本情報が欠落し、代わりにケン・バーンズ効果の遅い画像やフラッシュアニメーション、音楽が溢れている。サイト作成者もオーナーも、他のレストランのサイトで情報を探した経験があるはずなのに。Butterfieldは『オーナーの錯覚』と名付け、この現象は『自分のもの・自分の表現が重要だ』という意識が強すぎて、疲れていて、トイレに行きたくて、子どもの学校の問題で悩んでいる普通の人間がユーザーだという事実を見落とす心理だと分析した。
オーナーの錯覚を克服する方法——他者の視点と実装の重要性
オーナーの錯覚に気づくには、自分以外の人間にフィードバックをもらい、それを認識・議論・訓練することが必須。Butterfieldが推奨する具体的な方法は『深呼吸して、普通の人間になったつもりで、もう一度この画面を見てみる』。そして『これは何をするものなのか、どうすればいいのか、何が起きるのか、が分かるか』と問い直す。Murphyの法則のように『事前に気をつけていても問題は起きる』という法則が適用されるため、常に自分たちの思考パターンを疑い、『これは本当に普通の人にとって簡潔か』という視点を持ち続けることが重要だ。